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2019年 10月 29日 12:20

万全のアーモンドアイ、やはり無敵。調教師も騎手も驚いた圧倒的な脚。

かつて、秋の盾をこれほど圧倒的な強さで勝ち取った馬がいただろうか。

令和最初の天皇賞となった第160回天皇賞・秋(10月27日、東京芝2000m、3歳以上GI)を、クリストフ・ルメールが騎乗するアーモンドアイ(牝4歳、父ロードカナロア、美浦・国枝栄厩舎)が直線で鋭く抜け出し、3馬身差で優勝。

勝ちタイムは、レコードにコンマ1秒及ばぬ1分56秒2。牝馬としては、2010年のブエナビスタ以来の勝利となった。

「びっくりしました。これだけのメンバーなので、鎬を削っていく感じになるのかと思っていたら、一気に抜けた。おっかないな、すごいな、と思いました」

レース後の国枝栄調教師のこの言葉が、アーモンドアイの恐ろしいほどの強さを何よりもよく現している。

アーモンドアイには十分な「隙間」。

2番枠から速いスタートを切り、好位の内で先行した。が、1000m通過59秒0というゆったりした流れのなか、前には最大の強敵と目されていたサートゥルナーリア、すぐ外には3番人気のダノンプレミアム、直後にはスワーヴリチャードがおり、強固な「アーモンドアイ包囲網」が形成されていた。

直線では前が壁になり、行き場がないように見えたが、ルメールは冷静だった。ラスト400mを過ぎたところで、逃げていたアエロリットの内にあった馬1頭半ほどの隙間に、迷わずアーモンドアイを誘導した。

「スペースがあれば、すぐに入ろうと思っていました。内に十分なスペースがあったので、そこに行った。アーモンドアイはすごくいい反応を示してくれた。ボタンを押したら、すぐに速い脚を使った。ぼくも彼女の上でびっくりしました」

実際には狭いスペースだったのだが、アーモンドアイがそこをすり抜ける時間がほんのわずかだったので、ルメールには「十分」と感じられたのだろう。

「包囲網」から抜け出したアーモンドアイは、見る見る後ろとの差をひろげていく。ゴール前ではルメールが何度も後ろを振り返り、最後の5完歩ほどは、ガッツポーズをしながらゴールを駆け抜けた。

4秒、10完歩ですり抜けた。

感動的とも言える強さで、10万人を超える観衆を熱狂させた。

アーモンドアイがアエロリットの内を抜けるまでに要したのは、10完歩弱、時間にすると4秒ほどだった。その間、ずっと右手前で走っていた。

が、抜け出してからゴールするまでは、また2度ほど手前を替えていた。それでも後ろを突き放していたのだが、どうやらアーモンドアイは、「本気」になったときは手前を替えず、余裕が出てきたら何度も替えるようだ。

あの隙間を抜けるときの「本気の走り」の迫力は、ディープインパクト級、オルフェーヴル級だったと言ってもいいだろう。

アーモンドアイが力を出し切れば、その近くでゴールすることができる馬は、今の日本にはいない。可愛らしい顔をしているが、まさに「化け物」である。

ルメールはこれで天皇賞3連覇。

けっしてスムーズなレースではなかった。前走の安田記念ほどひどくはなかったが、序盤に不利を受けていた。2コーナーで外にいたサートゥルナーリアに前に入られ、手綱を引いて、危うく内埒に接触しそうになるシーンもあった。

「ちょっと危なかった。怖かった。サートゥルナーリアが内に来て、アーモンドアイにプレッシャーをかけられた。でも、サートゥルナーリアの後ろは、いいポジションだと思いました」

不利を食らったことさえもプラスにとらえられるほど、このときのルメールには余裕があった。それはアーモンドアイの強さと状態から来る余裕だったのだろう。

ルメールは昨年の天皇賞・秋(レイデオロ)、今年の天皇賞・春(フィエールマン)につづく天皇賞3連勝を達成。

「平成最後と令和最初の天皇賞を勝つことができて嬉しいです」

昨年の秋、2分20秒6という驚異的なレコードでジャパンカップを圧勝した走りも強烈だったが、この秋天の走りには、それを上回るインパクトがあった。国枝調教師はこう語る。

「これまでいろいろなGIを獲る馬をやらせてもらいましたが、アーモンドアイは、我々が思っている上を行ってくれる。まだこの上があるような感じがしますね」

川田「アーモンドアイはやっぱり強いですね」

ライバルもお手上げだった。 馬場の真ん中から2着に追い上げたダノンプレミアムの川田将雅はこう言って苦笑した。

「スムーズに自分の競馬をすることができました。プレミアムならと思って挑んだのですが、アーモンドアイはやっぱり強いですね」

レース後、アーモンドアイは検量室前で曳き運動をしてクールダウンをした。歩きながらスタッフが馬体に水をかけて熱中症対策をしていたが、それでも少し歩様を乱すところがあったので、口取り撮影は見合わせた。

いつも、この状態が長く尾を引くことはないのだが、ふらついてしまうのは、一戦ごとに全力を出し切ってしまうがゆえのことなのか。

国枝調教師によると、次走が11月24日のジャパンカップになるか、12月8日の香港カップ(香港マイルにも登録)になるかは、オーナーサイドと協議したうえで、馬の状態を見て決めるという。

これでGI6勝目。史上最多の7勝を更新するのは時間の問題か。

リミットの見えない最強馬・アーモンドアイの今後がますます楽しみになった。